店長の挑戦
店長の小泉直也です。本ページでは私がチャレンジしている取組みについて紹介します。共同開発や一緒に何か取組める可能性がある方がいらっしゃったら、是非ご連絡頂けると幸いです。世の中に無い新しい商品やサービスを作りましょう。
略歴
大学では物理学を専攻し、2009年に東京科学大学(旧東京工業大学 生命理工学研究科)の博士課程を修了。味の素株式会社にて蛋白質工学分野の研究職、および知的財産部にて特許関連の仕事を5年間従事していました。その後、製菓製パンの専門学校を卒業し、株式会社帝国ホテルにてパティシエとして勤務した後、2018年にNatural cafe & patisserie Teafulを開業しました。
お店を始めて数年が経ち、美味しい洋菓子以外に私の強みや当店のオリジナリティは何か考えるようになりました。最近では「工学博士のパティシエ」ならではの活動を始めるようになりました。科学的な視点で製菓を捉え、世の中に無い商品を生み出したいと考えており、チャレンジしている事例を以下に紹介します。
長期保存できるスイーツの開発
2020年頃、当店では常温で長期保存できる洋菓子の開発に着手しました。震災の多い日本において、ここ数年で防災食が充実してきたにも関わらず、スイーツの分野はまだまだ一般的ではないように感じていました。そこで、パティシエの知識と食品会社で学んだ製造工程に関する知識を併せて、パティシエが作る美味しいテリーヌ・ショコラの味をいかに維持したまま缶詰化できる取組みました。
また、味だけでなく、スーパーフードを使う事で同時に栄養も取れるように工夫しました。50種類以上の栄養成分を含む微細藻類のスピルリナ入り、ラズベリーやマキベリーなどを加えたミックスベリー、アーモンドやクルミなどを加えたミックスベリーがあります。常温で保存でき、賞味期限は製造から3年です。災害時に少しでも華やかな気分になるように、箱のデザインも工夫しました。
こちらの商品は店頭やWeb上(https://teaful.raku-uru.jp)にて販売しております。
今後はレトルト殺菌に耐えられる栄養成分を選別して別添する、実際にどの程度の栄養成分が残存しているか調べる、などによって更に価値ある商品に改良していきたいと思っています。また、パティシエが作る本格的なとろけるプリンシリーズも同様に開発したいと思っています。ただ、設備と予算的な問題で、思ったように進んでいないのが現状ですが、いつか必ず、世に出したいと強く思っています。
同様に、カスタードクリームの常温での長期保存にもチャレンジしています。これまで何度も失敗しており、完成させるのは非常に困難を極めそうですが(なにが難しいかの詳細はここでは省きますが)、いつか災害時にも美味しく食べられるシュークリームも世に出したいと思っています。

高付加価値スイーツの開発
どこでも手軽にスイーツが買える時代だからこそ、見た目や味以外の付加価値が必要だと考えています。当店では先述の「常温での長期保存」のほかに、「低糖質」、「高タンパク質」、「アレルギー対応」などの商品開発を進めています。いずれも一般品と同程度の美味しさを表現するのが難しいですが、少しでもより美味しいものができないか日々検討しています。
例えば、ケーキでは小麦、卵、乳は最もポピュラーな材料なため、全てを使わない商品は当店ではゼリーのみになってしまいます。そこで特定原材料8品目(乳・小麦・卵・そば・えび・かに・くるみ・落花生)を使わないムースを作りました。ベースは豆乳と豆腐で作り、カカオマスで豆の風味をマスキングしました。ムースに合わせるミックスベリーのソースもフランボワーズを多めに加えることで風味を強く感じられるようにしており、豆感を抑える工夫をしました。御客様からは「言われないと豆乳だと判らない」という御言葉も頂きました。アレルギーをお持ちの方が突然いらしても大丈夫なように、なるべく常に店頭に並べるように心がけています(※ただし、同厨房内で小麦や卵は使用していますので、敏感な方はお控えください)。
ここ最近は「高タンパク質」洋菓子の開発に着目しています。飽食の時代なため意外に感じますが、タンパク質の平均摂取量が本来必要な摂取量に届いていないそうです。そこで、2024年11月から消化吸収の良い魚肉ペプチドを使用したデザートの開発に取り組み始めました。ただ、魚肉ペプチドは個性的な風味があり、スイーツの材料として適しているとは言い難い側面があります。どのように匂いをマスキングするか、またはその個性的な風味を活かしたスイーツを作れるか…なかなか難しい課題ですが、美味しさを維持したまま配合量をどれだけ増やせるかチャレンジしたいと思っています。スイーツを美味しく食べてより健康に…そんな商品を生み出していきたいです。
洋菓子と科学
皆さんも御存知の通り「お菓子作りは科学だ」と良く言われています。スイーツ作りは化学反応や物性をうまく利用しているものが多いです。そのため、細かい計量や作っている途中の温度管理が重要な事が多く、科学を深く理解している方が失敗を防げたり思い通りに作りやすい事が多いです。コツや注意点はwebで調べればある程度はわかるものの、科学をある程度理解していないと、一般的な洋菓子作りの範疇を超えた商品を新しく生み出すのは難しいと私は思います。
お菓子作りと科学の両方を、それぞれの世界で深く学んだ私だからこそ、科学的な視点でお菓子作りの難しさや面白さを伝えられるのではないかと思っています。
大学生向けの科学的な説明(分子構造や物性の話など生化学の大学教養レベル)を交えたお菓子作り教室や、科学を身近に感じてもらえるような子供向けのお菓子の解説に出演したりもしています。
【サイエンスラバー】#38 ゲスト:小泉直也さん(カフェ&パティスリー・ティーフル店長) | 一般社団法人LeaL
私には洋菓子嫌いの息子がいますが、ケーキは食べなくても科学を学ぶ楽しさは知ってほしいと切に願っています。一人の親として、科学が身近であることやその面白さを、一人でも多くの未来を担う子供に伝えられるような活動を引き続きしていきたいと思っています。